競馬の賞金と聞くと、「勝った馬が大きな金額を受け取る」という豪快な光景を思い浮かべるかもしれません。ところが、その仕組みをのぞいてみると、本賞金、出走奨励金、特別出走奨励金、各種の奨励賞など、名前の似た制度がずらり。競馬場より先に漢字が走り出しそうです。
さらに、競走馬のクラス分けに使われる「収得賞金」は、実際に交付される賞金とは役割が異なります。ここを混同すると、「これだけ稼いだのに、なぜこのクラス?」という疑問が生まれがちです。
競馬の賞金は一種類ではない
中央競馬には、すべての競走に共通する賞金と、特定の条件を満たした競走馬に交付される賞金があります。中心となるのは、1着から5着までの馬を対象とする本賞金です。
本賞金の金額は、競走のクラスや条件によって異なります。レースごとの具体的な金額は競馬番組に示され、同じ着順でも、どの競走に出たかによって金額が変わります。優勝という結果が同じでも、舞台が変われば賞金も変わるわけです。表彰台の高さだけでなく、財布の厚みもレース次第です。
本賞金以外にも、6着以下の一部の馬を対象とする出走奨励金や、条件に応じて加算される手当があります。したがって、「賞金=1着馬だけのもの」と考えると、制度のかなり手前でゲートを出遅れてしまいます。
本賞金は1着から5着まで

本賞金は1着馬を100%とした場合、2着から5着までが一定の割合で設定されます。
| 着順 | 1着本賞金に対する割合 |
|---|---|
| 1着 | 100% |
| 2着 | 40% |
| 3着 | 25% |
| 4着 | 15% |
| 5着 | 10% |
たとえば、1着本賞金を基準にすると、2着はその40%、3着は25%です。勝利の価値が大きいことはもちろんですが、掲示板に入ることにも明確な意味があります。ゴール前の鼻差には、観客の悲鳴だけでなく賞金の差も乗っています。
なお、割合を乗じた結果に1万円未満の端数が生じる場合は、四捨五入した金額が交付されます。
6着以下にも出走奨励金がある
本賞金の対象外となる着順にも、一定の範囲で出走奨励金が設けられています。原則として全競走の6着から9着までが対象で、重賞競走と、重賞以外の平地オープン競走では10着まで対象になります。
交付額は1着本賞金に所定の割合を乗じて算出されます。ただし、着順だけで自動的に交付されるとは限りません。1着馬とのタイム差が定められた基準を超えた場合は、出走奨励金が交付されない扱いがあります。完走すれば必ず同じ、という単純な参加賞ではないのです。
また、一部の競走では通常の出走奨励金とは別に、特別出走奨励金が交付されます。3歳または4歳以上のGⅠ競走、ならびに芝1800メートル以上のGⅡ競走では、11着以下となった馬が対象になる場合があります。金額はオープン馬が100万円、3勝クラスの馬が50万円です。
有馬記念では、出走馬のうちファン投票10位以内の馬に特別出走奨励金が交付されます。このほか、ワールドオールスタージョッキーズやヤングジョッキーズシリーズにも、それぞれの特別出走奨励金があります。
1回の出走を支える特別出走手当
競走への出走に伴って交付されるものとして、特別出走手当があります。設定単価は1回の出走につき55万円です。ここには年齢、競走条件、距離などに応じた加算措置が設けられています。
| 対象 | 設定単価への加算 | 交付額の例 |
|---|---|---|
| 3歳または4歳以上・芝1800メートル以上の平地競走 | 6万円 | 61万円 |
| 3歳・芝1800メートル以上の平地競走 | 3万円 | 58万円 |
| 2歳馬の競走 | 5万円 | 60万円 |
| 障害競走 | 1万円 | 56万円 |
たとえば、4歳以上3勝クラスの芝2200メートル戦に出走した場合は、設定単価55万円に6万円が加算され、交付額は61万円です。3歳未勝利の芝2000メートル戦なら3万円が加算され、58万円になります。足し算だけを見ると穏やかですが、制度の条件分岐はなかなか元気です。
一方、減額措置もあります。9着以下の馬で1着馬とのタイム差が基準を超えた場合は、半額交付となる場合があります。3歳新馬のダート1600メートル戦では、9着以下かつ1着馬とのタイム差が5秒を超える場合が、その例です。
3歳未勝利競走の編成終了後に平地未勝利馬が平地競走へ出走した場合も、半額交付となります。また、地方競馬へ転出した後に中央競馬へ再登録した馬の多くが該当する減額措置があり、平地競走へ出走した場合は12万円を減額して交付する扱いです。
距離や生産条件に応じた奨励賞
続いて、本賞金や出走手当とは別に用意される奨励賞を見てみましょう。3歳または4歳以上の馬が芝1800メートル以上の平地競走へ出走し、1着から10着に入った場合には、距離別出走奨励賞が交付されます。
2着から10着までの金額は、1着の金額を基準として、順に40%、25%、15%、10%、8%、7%、6%、3%、2%です。中長距離競走への出走を賞金面から支える仕組みで、10着まで段階的に設定されている点が特徴です。
平地の全競走では、1着から8着に入った国内産馬を対象とする内国産馬奨励賞があります。2着から8着までは1着の金額に対し、40%、25%、15%、10%、7%、5%、3%となります。
さらに、米国産馬限定競走以外の平地新馬・未勝利競走では、対象となる国内産米馬に内国産馬奨励賞に加えて内国産米馬奨励賞が交付されます。3歳未勝利については春季のみが対象で、こちらも1着から8着まで。2着以降の比率は40%、25%、15%、10%、7%、5%、3%です。
このほか、開催初期の所定の平地未勝利競走に出走した3歳の初出走馬には、3歳新馬競走との差額相当額を加える制度があります。競走条件、馬齢、距離、生産条件が重なり合うため、賞金制度は一枚の札ではなく、何枚もの札を丁寧に重ねた構造になっています。
付加賞は特別登録料から生まれる

特別競走へ出走する場合は、原則として特別登録が必要で、特別登録料が発生します。馬主から集められた特別登録料の総額は、7対2対1の割合で1着から3着までに交付されます。これが付加賞です。
たとえば、第1回特別登録が1万円で20頭、第2回特別登録が2万円で15頭なら、登録料の総額は50万円です。この50万円を7対2対1で分けるため、1着に35万円、2着に10万円、3着に5万円が配分されます。
本賞金に付加賞を加えたものが総賞金として扱われます。特別競走では、ゴール前の争いに登録料由来の付加賞も加わるわけです。数字にもきちんと追い込みがあります。
収得賞金は実際の獲得額ではない

賞金の話で特に混同されやすいのが、収得賞金です。名称だけを見ると「これまでに受け取った賞金の合計」に思えますが、実際には競走馬のクラス、すなわち競走条件を区分するための金額です。
本賞金は、レースで所定の着順に入ったことによって実際に交付されるお金です。総賞金は、本賞金に付加賞を加えたもの。一方の収得賞金は、各馬をどの競走条件に置くか、出走希望馬が多い重賞などでどの馬を出走させるかを判断する際に使われます。同じ「賞金」という名札を付けていますが、担当部署が違うようなものです。
- 本賞金:原則として1着から5着までの馬に実際に交付される賞金
- 総賞金:本賞金と付加賞を合算した金額
- 収得賞金:競走馬のクラス分けや出走順位の判断に使う金額
収得賞金は、対象となる競走で所定の着順を得た際、実際の本賞金をそのまま足すのではなく、競走条件ごとに定められた金額を加算します。重賞競走では1着と2着、重賞以外では出走した競走の条件に応じた扱いとなります。
このため、実際に獲得した総賞金が多い馬と、収得賞金が高い馬の並びが必ず一致するわけではありません。クラシックなどで出走希望馬が多いときに話題となる「出走ボーダー」は、この収得賞金と深く関係しています。
賞金は馬主収入の中心だが、支出もある
レースの賞金や各種手当は、馬主活動における主な収入です。ただし、獲得額がそのまま手元に残るわけではありません。競走馬の購入費に加え、飼料代、飼育費、調教費などの預託料が発生します。
美浦、栗東のトレーニング・センターにおける預託契約は馬主と調教師の直接契約で、預託料は厩舎によって異なります。馬主活動の収支を見る際は、賞金だけを眺めるのではなく、購入後も継続する費用を含めて考える必要があります。大きな賞金額だけを見て「これは華やか」と早合点すると、支出欄が静かにこちらを見ています。
中央競馬に登録された馬主同士であれば、1頭を共同所有することもでき、共有は1頭につき10名まで認められています。また、施設内での不慮の事故に備えた事故見舞金制度や、登録抹消時に年齢、時期、出走実績などに応じて一定額が支払われる制度もあります。
賞金の見方が分かると競馬番組が立体的になる
競馬の賞金は、勝ち馬へ渡る本賞金だけでは完結しません。2着から5着までの本賞金、下位着順への出走奨励金、出走そのものを支える特別出走手当、距離や生産条件に応じた奨励賞、特別登録料を原資とする付加賞が組み合わされています。
そして収得賞金は、現金の獲得額を示す数字ではなく、クラス分けや出走馬決定に関わる競走上の指標です。この区別を押さえておくと、昇級、出走ボーダー、競走選択といった話題がぐっと理解しやすくなります。
レース結果を見るときは、着順だけでなく、その競走のクラスや距離、各種手当の対象にも目を向けてみてください。ゴール板の先にも、賞金制度という長い直線が続いています。


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